第10話 集ったら散るだけ。
先輩の話は……率直に言って、よくわからないことだらけだ。その管理者が市島先輩のお姉さんだったってことはわかった。何かの不具合で、前の世界は崩壊したんだな。俺たちは緊急脱出みたいな感じで転生させられて、今ここにいるってわけか。
けど、俺の前の記憶に残っている顔見知りって、クラスの中だとひとしかいないんだよな。他のやつらはどうなったんだ? 転生に失敗したのか? 失敗したらどうなるんだろう。
だからって誰がいたんだろうって記憶を辿ろうとしても、靄がかかったようにぼんやりしていて、ちゃんと思い出せない。
それに、俺はこの世界の記憶がほとんどない。家族構成は両親と姉が一人いるってのはわかる。だが前の世界の、俺の家族がどんな存在で、今とどう違うのか、皆目見当がつかない。そもそも前の家族と今の家族って同じなのか? もし別の家族だったとしたら、もっと強烈な違和感を抱くはずじゃないのか?
それと、その管理者のお姉さんは今どこにいるのだろう。
この世界は未完成というレベルではなく、完全にバグだらけのゲームソフトみたいだな。
「世界の理なんて、そう簡単に理解できるもんじゃないよ。ましてや、わたしたちはまだ高校生なんだから」
市島先輩の言葉に、ひとも童子山もそれぞれ思いを巡らせているようだった。
「ところで、今のところ自覚者は俺たちだけなんですよね。ちょっと少なすぎじゃないですか?」
「いや、他にも声をかけたんだけどさ。忙しいって断られて、半分以上来てない」
「出席率わる!」
え、他ってどんな連中だろう。仲良くできるかな。あ、そういえば、今日はまだ童子山と会話してないな。童子山から話しかけてくるのを待ってたら、日が暮れてしまいそうだ。やれやれ、俺から話題を振ってみるか。
「そういや髪切った?」
「見りゃわかるだろ、半分ぐらいの長さになってるんだぞ!」
童子山が激昂し、小声で「シネシネシネ」と呟いた。どうやら怒らせてしまったようだ。
「るるちゃん、もののことは気にしなくていいからね」
るるちゃん!? 思わぬところで童子山の下の名前を知ることになった。確かに、童子山の髪はばっさり切られて、ショートカットより少し長めぐらいの髪型になっていた。雰囲気がかなり変わっている。もちろん最初から気づいてはいたんだが、この前の出来事の後、どうなったのか聞きたいことはたくさんあったのに、話すタイミングが掴めなかったんだよな。
まあ、陰キャの宿命だよな。常にビクビクしてるもんな、俺は。
「先輩、自覚者って今、何人ぐらいいるんですか?」
少し頓珍漢な質問かなと思いつつも、気になっていることを口に出した。疑問はできる限り解決しておきたい。
「わたしが把握しているのは、そんなにたくさんはいないよ。でも普通に考えたら、もう少しいるだろうね。わたしたち以外にも、新しいコミュニティが出来上がっているかも」
「全校生徒が自覚者だって可能性は?」
「もしそうだったら、とっくにこの世界は崩壊してると思う……。少なくともわたしたちは、世界のバランスを崩しかねない存在だから」
俺の理解が及ばないのか、やはり先輩の話はよくわからない。
「ここって、いつでも自由に出入りしていいんですか?」
右手の人差し指を立て顔の前に突き出しながら、ひとが尋ねた。別にそんなポーズを取る必要はなかろうに。
「自覚者同士の交流は大切だからね。好きに使っていいよ。曽我井先生に許可も得てるし」
「曽我井先生も自覚者……なんですか?」
「そうだよ。今のところ大人の自覚者は、玻璃ちゃんぐらい」
市島先輩の、曽我井先生の呼び方が妙に馴れ馴れしい。
「玻璃ちゃんが言ってる通り、保健室にも顔を出してみるといいよ。玻璃ちゃんを介して見つかる自覚者も出てくるだろうから」
「ところでキキちゃん、わたし、そろそろバイトの時間」
八木先輩が、左目が膨らんで溶けかけているグロカワなキャラクター壁掛け時計を眺めながら言った。
「俺も家の用事があるんだよね」
日吉先輩も続けて言った。
この二人は前回も同じようなパターンで帰っていったが、さすがの市島先輩も今回は拗ねることはなく、首を少し下げたまま肩を落とし大きなため息をつくという程度の表現で済ませた。ひとといい、先輩といい、このたまに見せる虚構臭さはなんなんなんなん。
こうして新しいアジトでの集まりは終わりを告げた。
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