アラロワ おぼろ世界の学園譚 | 002 アジトの元は元アジト | 第14話 アジトtoアジト。

第14話 アジトtoアジト。

 母校であるにも関わらず、中学校の名前を初めて知った。
「二組。三年二組が、私たちのクラス」
 るるに指示に従い、そっとページをめくる。
 三年二組の卒業名簿はすぐに見つかった。顔と名前をチェックしていくが、ざっと目を通した限りではを見つけることはできなかった。俺は、ベッドの上に腰掛けた、るるの方を見上げた。
 るるは、顎を突き出す仕草で、もう一度ちゃんと見るよう、俺に促した。
 ――童子山るるの名前を見つけた。るるは最初に会った時と同じく、長い髪を一つに編んでいた。おとなしくて真面目そうな印象を受ける。写真では眼鏡をかけていた。
「そういや」
 俺は、るるに声をかけた。
「ん?」
「さっき髪型のこと、無神経な言い方してごめんな。友達に取る態度ではなかったな」
「……別に気にしてないけど、その言い方ってなんか……」
 るるが目をらし、天井を見上げながら複雑な表情を浮かべた。
「いきなり前の記憶が戻ったみたいな言い方するなよ」
 るるの言葉の意図が、俺にはよく理解できなかった。
 俺は、再度卒業名簿の探索を始めた。ほとんど、いや、童子山るる以外は知らない名前ばかりだった。けれど、もしかしたら今の同級生がいるかもしれない。そのうち思い出すのかもしれない。
 新田物朗。やっと自分の名前を発見した。俺の名前の上には、見覚えのない顔写真が掲載されていた。
「あの……いや、俺って誰なの?」
 るるは小さくため息をつくと、俺が見ている卒業写真のページをのぞき込んだ。
「よく見てみろって、よーく」
「うーん、俺に似ている……人だよな……。兄弟とかなのか?」
「あー、物朗くんは重症だな……。じゃあこれ」
 そう言って、るるは自分の携帯に表示された写真を俺に見せてきた。浴衣を着た男女、男一人と女二人がピースサインで写っている。構図から察するに、左側の女子が自撮りしたものだろう。典型的なリア充写真といった感じの……あれ? これ、左がるるで、右がひと……じゃあ真ん中のこのチャラそうな男は。
「あのー、あなたが中学生の時にリア充だったのはわかりましたがね、俺としてはこんなものを見せて自慢されたところで、なんていうか、その……そうか……。これ……俺かあ……このチャラ男、俺なのかあ……」
 俺はやっと理解した。つまり中学生の頃の俺は、なかなかチャラくて、ノリの良さそうな男子で、クラスの女子と夏祭りに行って、距離感のバグったような写真を何食わぬ顔で撮るようなやつだったってことか。
「別に物朗くん、チャラかったわけじゃないぞ。普通の男子で、友達も多くて、クラスのムードメーカーみたいな、そういう……」
「やめてくれよ。俺、転生して陰キャ眼鏡になったストーリーをこれから送らなきゃいけないんだぜ。過去はもう戻ってこないんだから忘れさせてくれたっていいじゃないかよう」
 俺は頭を垂れた。この写真の人物を演じるなんて、とてもじゃないが無理だ。確かに俺は俺なんだろうけど、まったくの別人に生まれ変わってしまったみたいだ。
「ていうかさ、物朗くん。なんでそんな格好なんだ?」
「なんでって……いや、知らないよ。俺はこの姿が俺自身だって思ってたから」
「気づいてないのか? それ、枚田ひらたさん、千年ウォークのひらっちさんの、前の世界の姿にそっくりな髪型と眼鏡なんだよ」
「え? ちょっと待って」
 俺は混乱していた。え、何? 俺は記憶の混乱で、自分の容姿をひらっちと思い込んで、わざわざ似せてきてたってことか? はあ?
「枚田さんのファンだって言ってたのに、陰キャ眼鏡童貞野郎はひどくないか?」
 俺、そんな失礼な物言いしてたかな。……してたんだろうな。俺の記憶は曖昧なのだから。
「え、でも、ひらっち……っていうか、千年ウォークのこと知ってるのか?」
「知ってるよ。今の千年ウォークだって知ってる。だって、ひらっちさんの相方、生栖いぎす春実はるみは私のいとこだぞ」
「いやもう、情報過多ごめんなさい」
 俺は床に頭をつけて土下座していた。
「それから、春実さんは物朗くんのお姉さんの友達」
「もう勘弁してくれ」
 俺は滝のような涙を流しながら懇願した。
「千年ウォークは元々『アジト』っていうトリオで、一人抜けてコンビになって改名した」
「それはどうでもいい情報だな」
「ファンのくせに冷たすぎるだろ!」
 るるが俺の肩をつかんで激しく揺さぶった。


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